語句の断章(49)「須く」

文化庁が2020年に実施した「国語に関する世論調査」。「すべからく」の意味に関して次のような結果が出た。

半数以上が意味を正しく知っているとは……。正直なところ、これには驚いた。なぜなら、漢文訓読調の「須く~すべし」という表現を使った知り合いのほとんどが、「すべて」という間違った意味で使っていたから。「世の中は何もかも、すべからく・・・ですからね」という具合。

正答が誤答を上回った理由はすぐにわかった。須くの意味は「当然、ぜひとも」か、それとも「すべて、みな」かという二者択一でアンケートを取ったからだ。初見の人もすべてという意味だと思っていた人も、逆を選んで正答になったのだろう。

須くは辞書にちゃんと載っている。昔に書かれた本を読むと目にすることがある。現代文ではめったに出くわさない。会話ではぼくよりも若い世代の、いわゆるインテリ系がたまに使う。古い本では正しく使われ、会話では間違った意味で使われる。

わざわざ「青年は須く勉学すべし」などと言ったり書いたりしなくても、「若いうちにぜひともしっかり勉強してもらいたい」でいい。つまり、今の時代、須くにはほとんど実用の出番がない。須くは読み方と意味を尋ねる雑学クイズか漢字検定で使うために生き残っているようなものだ。

なお、読みも意味も知っているが、この歳になるまで須くを一度も使ったことはない。仮に無理して使ったとしても「すべて」という意味に取られるはずである。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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