昨日、『博士ちゃん新春スペシャル』を見た。ある分野にとびきり詳しい小中学生の博士ちゃんたちをクローズアップする番組だ。本物の博士と遜色ない専門性のすごさに驚かされる。知識もさることながら、言語能力が際立っている。
二人目の博士ちゃんは葛飾北斎を目指す14歳の少年。海外に流出したと伝えられる北斎の幻の作品を探し求める構成だ。オランダとイギリスを訪れて専門家の話を聞き、間近で実物の版画を見せてもらう。ぼくが思わず声を発したのは大英博物館での一シーンである。
「あ、アルフレッド!」
アルフレッドは30年前にライターとしてぼくの会社に勤めていた。起業してから国際広報の仕事が忙しく、常時2人の英文ライターがいた。当時は20代の半ばか後半だった彼の風貌はだいぶ変わっていた。しかし瞬時にわかった。アルフレッド・ハフト、大英博物館のアジア部日本セクションの学芸員。
なぜ瞬時にわかったか。実は、10年くらい前だったと思うが、これまで一緒に仕事をしてくれたアメリカ人ライターたちを検索してみたのだ。マイケル・・・、アダム・・・、リサ・・・ら、順番に検索したが、おびただしい同姓同名の人物が出てきて手も足も出なかった。ところが、同姓同名が少なくなかったものの、検索し始めてすぐにある一人のアルフレッド・ハフトにピンときた。
添えられた写真の面影と日本セクションの学芸員という肩書がヒントになった。そして、プロフィール文中にある“Mitate, yatsushi, furyu”(見立て、やつし、風流)が決め手になった。そんな話をしたことを思い出したのである。プロフィールの最後にメールアドレスがあり、「うちの会社にいたアルフレッドか、ぼくのことを覚えているか、元気にしているか……」というありきたりなメールを送った。
返事がきた。やっぱりあのアルフレッドだった。「日本で英文をたくさん書いた経験が今生きている。感謝している」と書いてくれていた。たしかあと一往復メールのやりとりをしたと思う。
あのメールから10年。江戸時代の日本独特の概念や作品の研究をしている旧知の博士と、葛飾北斎を追い求める少年博士ちゃんのツーショットはほほえましかった。アルフレッドの控えめで誠実な話しぶりは当時のままだった。元日の災害と翌日の事故で気分はかんばしくなかったが、いい番組が見れて少し気分が持ち直したような気がする。