2016年のわが年賀状のテーマは『いろはカルタ』だった。「を」と「ゐ」と「ゑ」と「ん」以外の「いろは……」を創作して何とか恰好をつけた。いろんな本や辞書に目を通したが、岩波のカルタ辞典が大いに参考になった。
その年賀状は思いのほか評判がよく、「ぜひ続編を」という数人からの励ましがあった。そこで「いろは」に替えて試みたのが「一二三」の数字を含むカルタ。数にちなむ諺や故事成語を発展的に解釈したのである。
2016年12月8日付けの「2017年の年賀状(案)」というメモが残っている。いろいろ考えた末の最終候補作」が走り書きしてある。
いの一番、一意専心
二兎追う者……、二番煎じ
三枚目、三人寄れば……
四苦、四十
五臓六腑、双六
七福神、七転び八起き、七転八倒
九回裏
十戒
十二
十五十六十七
十八番
十一、十三、十四は欠番のつもり。案が出なかったのではなく、単にスペースがないだろうと判断したから。
さて、最終案はどうなったか。「二兎」「双六」「九回裏」「十五十六十七」「十八番」が残り、他はすべて入れ替わった。あれから6年、今の思いをコメントしてみた
一言以て之を蔽う(いちげんもってこれをおおう)……この論語を一番バッターに据えたのは力が入り過ぎ。
二兎を追う者は(にとをおうものは)……やや月並み感あり。「二足のわらじ」にするかどうかで大いに悩んだ。
読書三到(どくしょさんとう)……口到、眼到、心到という知識の見せびらかし。「三度の飯」くらいでよかった。
四面楚歌(しめんそか)……中国古典由来のものは難しく、カルタ遊びに向かない。
五里霧中(ごりむちゅう)……読書三到、四面楚歌に続いて四字熟語が三つ並んだ。
双六(すごろく)……やっと普通のことばで一安心。
無くて七癖(なくてななくせ)……胸を張れる七ではない。この七は「いくつか」という意味だから。
腹八分(はらはちぶ)……数字カルタとしてとてもわかりやすい。
九回裏(きゅうかいうら)……期待とガッカリを併せ持つ、表ではなくて裏だからこその九。ちょっとした裏ワザだと自負。
十で神童(とおでしんどう)……二十歳で平凡な人になるための条件としてとらえるとおもしろい。
十二進法(じゅうにしんほう)……十二は零に次ぐ大発明で、一二三カルタには欠かせない。
十五十六十七(じゅうごじゅうろくじゅうしち)……演歌の世界では人生で特に暗い3年間ということになっているが、カルタ一枚で三役がさばけるならスグレモノ。
十八番(おはこ)……いろはカルタと違って一二三カルタは延々と続く。十八はちょうどよい止め時ではないか。