大阪くらしの今昔館で開催中の企画展『レトロ・ロマン・モダン、乙女のくらし』を見てきた。女性のファッション、化粧品のデザインとパッケージ、石鹸や生活雑貨、絵葉書・雑誌など、明治から昭和初期までのおびただしいコレクションが展示されている。
デザインもさることながら、かつて「引札」と呼ばれていた商品や店の広告チラシの文章を楽しませてもらった。知りもしない過ぎし時代を感じるのは当然だが、着眼と切り口、文案と表現のセンスの良さに感心した。
つかみのコピー、概要のコピー、本文のコピーを棲み分けして書いている。「人と話の出來る 喫茶 キューカンパ―」と店を紹介し、「新開店」であり「來易く氣安で高尚」な店だと訴求し、「喫茶と輕いお食事」ができると伝える。本文は、まるで小説か散文詩のようなタッチで綴られ、不思議な空気を醸し出している。
春です‥‥‥アスフアルトの街
路に流れる軽快な足どりの、
リヅムにあでやかな、薫香の
どよめきが踊つてゐます。春
です‥‥‥全ては芽ぐみのび立
つて享樂の階調にしたつてゐ
ます。紫の氣の立ちこめたコ
バルトの空に獨り立ちの翼を
ひろげて精一杯の呼吸をつい
た時たよりない力と希望に殻
を破つて巢立ちしたキユーカ
ンは皆様にお願ひいたします
キユーカンパー‥‥‥キユーカ
ンパー‥‥永しえに御引立てを
所々の旧字に味がある。二字熟語を使った「薫香のどよめき」も「享樂の諧調」も語感がいい。一瞬読み方に戸惑った「永しえ」という、何とも大仰な言い回しが、今では逆に斬新だ。「春です‥‥‥」を二度繰り返す技を掛けられて、つい文章を読み進めてしまった。
もう一つユニークなコピーを見つけた。六個入り壹圓の石鹸。「五つの特色」と謳う。
芳香温雅
泡立良く
生地を細に
肌を荒さず
最後迄形体
崩れず。
ルビは次のように巧みに振ってある。
にほひやはらか
あわだちよく
きぢをこまかに
はだをあらさず
しまいまでかたち
くずれず
レトロとロマンとモダンの文章、思っていた以上に自由度が高く創作性が豊かである。