語句の断章(70)間髪

この『語句の断章』では、これまで正用の語句を取り上げてきたが、今回の間髪は誤用であり、「かんぱつ」と読むのも間違いである。ゆえに「間髪かんぱつれず」と読むのも誤り。そもそも間髪などという語がない。

、髪を入れず」という熟語の最初の漢字を「間髪」とし、それを「かんぱつ」と読んだのが誤りの始まり。人間の身体のどこにも、間髪という、部分カツラのような髪は生えていない。

「間髪を入れず」ではなく、「間、髪を入れず」が正しく、「かん、はつをいれず」と読む。間とは何かと何かの隙間のことで、この熟語は「そこには一本の髪の毛すら入らない」ことを意味した。そしてやがて「すぐに」とか「とっさに」という意味に転じた。

講演会などで「間、髪を入れず」と言うと、「あの先生、間違っている」と思われる。そう懸念して、誰もが正しいと思っている「間髪を入れず」を使ってしまうと、それが誤用だとわかっている人に「あの先生、使い方間違っている」とつぶやかれる。

頻繁な誤用によって本家の正用が駆逐されてしまう。そのようにして慣用化した誤用の語句は少なくない。「間、髪を入れず」のように、途中で「、」で区切られる熟語で間違われるのが「綺羅星きらぼしのごとし」。綺羅星という名の星はない。これも正しくは「綺羅きらほしのごとし」である。

綺羅とは「美しい絹の衣装」。それを美しくまとった人たちが立ち並ぶ様子を星にたとえた表現が「綺羅、星のごとし」。「綺羅と星を誤って続けた語」と断りながらも、「きらぼし」を見出しに掲げる辞書もある。正用と誤用が互角に混在する今、それもやむをえない。

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proconcept

岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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