前回(2025年10月16日)の抜き書き録のテーマは「辞書を読む」。その続編として今回は「辞書を見る」のつもりで、何冊か手に取って読んだが、どれもしっくりこない。興味深く読めた1冊が『シンボル・イメージ小事典』(ジェイナ・ガライ著/中村凪子訳)。3つの「象徴・表象」を取り上げる。
📖 バラ
「バラはヴィーナスの花であり、歓喜、勝利、完全を象徴する(……)花言葉ではバラの花冠は美と報われた美徳を表わす。」
熱っぽく情熱をささやくのが赤いバラ。鳥にたとえるなら鷹とされた。一方、白いバラは鳩のようにそっと愛をささやく。先日訪れた中之島バラ園のバラはしおれていたが、それは美のうつろいやすさの象徴らしい。
古代ギリシアやローマでは、招かれた先のテーブルにバラの花が吊り下げてあれば、そこで話されたことは他言無用を意味した。つまり、他所で他人に話すな、秘密を漏らすなというサインだった。
📖 熊
「太古の時代から、熊は粗暴で残忍なものすべてを象徴していたようである。七万年ほど昔、ほかに捕えやすい獲物は多かったはずだし、非常な危険をともなったにもかかわらず、ネアンデルタール人はすでに熊狩りをしていた。」
『アイヌモシリ』というドキュメンタリー映画の中で、神聖な動物である熊が生贄の儀式に供されていた。北米インディアンやシベリアのオロチョン族でも儀式のための熊狩りがおこなわれていた。
最近、熊のニュースがない日はない。函わなに閉じ込められた熊は獰猛で暴れ狂う。実際の熊はかわいいぬいぐるみの対極の存在である。
📖 卵
「雌鶏は、卵がつぎの卵を産むための道筋にすぎない」(サミュエル・バトラー)
「生命の根源を秘めた生命の種のように見える卵は、事実、生命の種のようなものであり、それゆえに、動物界のみならず、宇宙全体の再生の象徴とされる。」
世界は、創造主が生んだ卵から生まれ、世界の形も卵の形をしていると信じられていた時代があった。卵は、目玉焼きやゆで卵、卵かけご飯として食べる単なる食材以上の存在として、神や神話世界と結びつけられていたのである。


