読書中に意識が漢字に向く

何が書いてあるか、その中身を理解しようとして本を読む。そういうふうに読み進めていくものの、ある時点で意識が漢字のほうに向き始める。中身そっちのけで、漢字の読みや意味や書けるかどうかを気にしている。漢文の本を読まされているような感じだ。そんな本は例外なのだが、たまに出くわす。


『悪の引用句辞典』(鹿島茂)がそんな本だった。最初は2013年に読んでメモも取っていた。本の内容の引用よりも漢字の抜き書きのほうが圧倒的に多い。

ほとんどの熟語の意味がわかるか類推できる。そして読めるが、いざとなると書けそうにない。別に書けなくても困らないが、何度も出合った漢字なのにこの歳になってまだ手書きできないのは少々悔しい。

軋轢 「あつれき」と読めるし意味もわかっているが、よく見たら「轢」のつくりが思っているのとは違っていた。

髣髴 前後関係から「ほうふつ」と思ったが、よく知っている「彷彿」ではない。実は、同じ読みで同じ意味。それなら彷彿でいいのではないか。

揶揄 「やゆ」と読めるし漢字も意味も知っているが、いつも「揄」の前に一呼吸して思い出さねばならない。

改竄 新聞では「改ざん」と書かれるので、いつまでたっても「竄」が覚えられない。つまり漢字の「ねずみ」が書けないということだ。

桎梏 以前覚えたので「しっこく」と読めるが、使うことがないので「手かせ足かせ」という意味がおぼろげになっている。しかも「梏」のつくりが「告」ではない。

旱魃 「かんばつ」と読めるし話しことばでは使うが、書くことはない。ゆえに「見てわかるが、書くのに苦労する」典型。

以下足早に。

拳々服膺 「けんけんふくよう」。心に銘記して忘れないこと。覚えようとは思わない。
宿痾 「しゅくあ」。長患いの病気や持病。使えたとしてもほとんどの人に通じない。
難詰 「なんきつ」。非難のこと。覚えやすいが、はたしてこの熟語に出番はあるか。
放擲 「ほうてき」。捨てること。擲が読めない、書けない。
贅沢 「ぜいたく」。頻出語なので読める人は多いが、贅の字の左上がややこしい。
一瀉千里 「いっしゃせんり」。物事が一気に進むこと。瀉は下痢の薬で見た記憶がある。
顰蹙 「ひんしゅく」。難解な字なのに認識はできる。しかし覚える気が起こらない。


これほどいちいち漢字に引っ掛かった本は珍しい。とは言え、本書はおもしろかったので、その後も何度か読み返した。そうしているうちに、副反応を起こした漢字にもなじんで違和感もだいぶましになった。

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proconcept

岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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