2014年12月22日現在、1ドルは119円、1ユーロは146円という為替レートになっている。「なっている」というのは、国際市場での各国通貨価値への、素人では読み切れない思惑ゆえの言い回しである。いずれにせよ、海外に何かを売る場合は円安が有利であり、海外から何かを買う場合は円高が有利である。ぼくたちが海外へ旅する時、円高であれば安く上がるし、円安だと高くつく。
2009年6月西海岸に滞在中の相場は円高であった。1ドル80円ちょっと。1ドルを買うのに今なら119円が必要だが、当時は80円で1ドルが買えた。1ドルが39円も安かったのである。わかりやすくたとえると、当時8,000円で泊まったホテル代が今だと11,900円に上昇したということだ。物価が上がったのではない。円がドルに対して価値を減らしてしまったのである。
国境を越える際には円を行き先の通貨に交換しなければならない。その交換レートが日々変動しているのである。「労働、土地、貨幣を商品視するのはまったくのフィクションである」(カール・ポランニー)という主張がある。相場によって貨幣価値は上下するが、その差益で儲けようという魂胆を戒めている(もちろん、同時に差損リスクも潜んでいる)。貨幣で買うべきは貨幣ではなく、モノでなければならないというわけだ。
過去10年でぼくはヨーロッパに5回旅している。その時々の円‐ユーロの交換レートは次の通りである。
2003年3月 120円台後半
2006年10月 140円台後半
2007年3月 150円台前半
2008年3月 150円台後半
2011年11月 105円前後
推移をざっと見ればわかる通り、1ユーロに対して円安と円高時には50円の差がある。
ぼくの海外歴の中でもっとも円が強かった2011年11月。当時、50万円をユーロに交換した。手数料を度外視すれば4,762ユーロに相当する。バルセロナとパリに旅したのだが、カード決済もあり、手元にユーロがいくらか残っている。現在は当時よりもかなり円安だから、1ユーロにつき40円の差益が出ていることになる。もし手元に1,000ユーロあれば、4万円ほど得した計算になるのだ。
1万ユーロなら40万円、10万ユーロなら400万円……と桁数を増やしていくと、人は色めきたつ。欲望が為替相場を動かしているのである。ぼくの差益などささやかなものだが、これとて、今海外に出ればメリットがあるが、旅行にはタイミングつきものである。どちらかと言うと、ぼくは円安の時期に旅をしてきたが、別に悔しくも何ともない。円高で得した、円安で損したなどと言うが、年がら年中世界を股にしているビジネスマンにとってはそんなことに一喜一憂していては海外出張などできない。
こんなことを綴りながらも、たとえばイタリアで3年前に飲んだエスプレッソ一杯1ユーロは、今も1ユーロなのである。イタリア人がエスプレッソを飲むときにユーロ高やユーロ安などは考えない。ただうまいコーヒーを飲むだけだ。旅人は「前回は105円だったが、今は146円か……」とつぶやく。為替レートに引きずられていてはせっかくの一杯を飲む愉しみも半減する。