新聞を買う、新聞を読む

「新聞はどこで買えるの?」と訊けば、「エディーコラ」と返事され、「えんやこら」のような響きにクスっと笑いそうになったのは、ローマのホテル。

新聞を読みたければたいてい買いに行かねばならない。イタリアやフランスでは当たり前のことだ。夏の暑い朝でも冬の寒い朝でも、最寄りの駅構内の、またはバス停留所近くの、あるいは広場や街角や通りのどこかのエディーコラ(edicola)まで足を運ぶ。キオスク規模の屋台のようなイメージの店である。雑誌を華々しくディスプレイしているから遠目にもわかる。現地の人には行きつけの販売店がある。

日々のニュースはネットで十分という向きが増えたものの、わが国は依然として新聞大国である。読売、朝日、毎日、産経、日経は自宅に配達してくれる全国紙。昨年11月の読売新聞の発行部数は1,000万部弱だった。イタリアの新聞ときたら、最有力紙でさえその5パーセント程度にすぎない。


大晦日も元日も、昨日も今日も新聞は配達された。一部のスポーツ新聞を除いて、ぼくたちは新聞を「買い出し」に行くことはない。一ヵ月単位で新聞代を支払えば自宅に毎朝毎夕届けてくれる。そのつど新聞を買わないで新聞を読むのがぼくらのスタイルである。他方、イタリアでは新聞を読みたければ出掛けなければならない。彼らは毎朝小銭を支払って新聞を買ってから新聞を読んでいる。

一杯のエスプレッソを飲むついでに新聞を買う。フランスでは焼き立てバゲットと新聞を買う。さぞかし面倒だろうと思うけれど、読むにしても食べるにしても、そのつど買うという習慣になじんでいるのである。その行為が、新聞販売店のたたずまいが、街の粋な光景に見えてくるから不思議だ。何でも恵まれすぎないほうがいいのだろう。暮れから10日ほどたまっている新聞にもう一度目を通し、必要な記事を切り抜きながらふとそんなことを思い出した。

IMG_5761Katsushi Okano
Edicola, Roma
2003
Pigment liner, color pencils, pastel

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proconcept

岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

「新聞を買う、新聞を読む」への2件のフィードバック

  1. 1990年頃,1年ほどパリにいましたが,Le Ficaro等は朝刊の宅配をしていました。勧誘のために1部+クロワッサンがドアの前に置かれていることが何度かありました。
    日本だけではないなぁ,と拡販材料が「パン」というのに少し驚きました。私は,その1部とクロワッサンをいただきました。住民を把握していないようで3回ぐらい来ました。
    資本のあるところは,それなりの別な方法を考えていたようです。
    別件ですが,郵便も早朝に配達されます。

    1. パリにも新聞によっては宅配するのですね。一年もいた宮さんとは比較にならないですけれど、ぼくが一週間単位で借りていたどこのアパートでも新聞を見かけたことはついぞありませんでした。パリにはエレベーターのないアパートも多いですから、配達も大変でしょうね。想像ですが、新聞+クロワッサンは「あなたの朝のノルマを解消してやるよ」という意味なのかもしれません。
      イタリアにはこのブログで紹介したedicolaが到る所にありましたから、もし宅配制度があるとしたら、新聞屋台は成り立たないでしょう。もっとも貴族の館のような豪邸の住人が毎朝新聞を買いに行く姿も想像しにくいですが……。

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