旅先のリスクマネジメント(2) 駅構内、列車、切符

テルミニ駅.jpgローマ・テルミニ駅(写真はコンコース)。映画『終着駅』でおなじみの、イタリア最大級の国鉄駅である。”テルミニ(termini)”は英語なら”ターミナル(terminal)”。国内線も近郊線も国際線もここに停まる。しかし、終わりは始まり、終着駅は始発駅でもあるから、地下鉄で行けない郊外や都市へ出掛けるにはこの駅が起点になる。

フィレンツェのサンタ・マリア・ノヴェッラ駅もミラノ中央駅も、テルミニ駅に匹敵する規模を誇る。このような鉄道の基幹となる駅につきもののトラブルがいくつかある。
 
まず、テルミニ駅が22番線あるように、列車が出発する番線が多いこと。東京駅とほぼ同数で東京駅ほど構造が複雑ではないから間違えようがないように思える。しかし、あちらの駅では出発間際まで番線が表示されないことが多いのである。コンコースの中央あたりにある大型掲示板をつねに見ておかねばならない。また、延着や出発遅れもアナウンスされないから、このパネルを随時チェックする必要がある。フィレンツェだったと思うが、パネルには17番線発とあったからそのあたりで待っていたら、出発するはずの列車が到着する気配がない。荷物を引っ張りながら移動して掲示板の前まで行けば、1番線に変わっていた。まあ、こんな具合なのである。リスクマネジメントの大部分は自己責任に委ねられる。
 

 次に、切符にまつわるトラブルがいろいろある。切符売場の窓口はだいたい混んでいるから、早めに並ぶことは当然だ。言葉の問題もある。ミラノからスイスのルガーノへの日帰り旅行の朝、知らずに国内線に並んでしまった。自分の順番が来ても売ってくれない。交渉の余地はなく、あらためて国際線切符売場に並び直した。これを機に、旅程が決まっていて変更の可能性がないのなら、長距離移動の際の切符は日本で予約するようにした。日帰り切符は自販機が便利だが、クレジットカードでの購入は少々面倒である。英語版画面で無事買えたとしても、券面がすべてイタリア語表示だから号車や座席がわかりにくいかもしれない。
 
さて、切符を買った。番線もわかった。テルミニ駅でも他の駅でも、いわゆる改札というものがない。自動改札口も有人改札口もない。切符を手にしたままプラットホームに入れる。しかし、そのまま列車に乗って、万が一車掌が検閲に来たら無賃乗車扱いにされて高額の罰金を支払う破目になる。プラットホームのあちこちにタイムレコーダーのような機械が設置されているので、そこに切符を差し込んで日付と時間を自分で刻印しておく必要があるのだ。これでやっと列車に乗り込めるが、それでもなお、向かう行き先が終着駅ではなく途中駅ならば、ほんとうにそこに停車するのかどうかの確認がいる。
 
乗ったら乗ったで油断はできない。座席探しにうろうろしていると可愛い女の子が二、三人近づいてきて親切に案内し、前後に挟まれてファスナーを開けられる。だから、肩にかけるバッグのポケットは身体側に向けておかねばならない。大きなトランクは座席まで持ち込めず、乗車口近くの荷物棚に置くから頑丈なチェーンで棚のバーにくくりつける。目的地以外の停車駅に着く前に見張りに行くことも必要だ。なお、車内アナウンスはほとんどない。次に停まる駅は新型列車なら電光表示されるが、古い型の列車なら駅に入線するたびにホームの駅名表示をチェックする。新幹線内のように熟睡などできないのである。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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