ナヴォナ広場から西へ少し歩けばパンテノンがある。その北側のロトンダ広場の一角に構えるのが、ガイドブック掲載常連の老舗カフェ「ラ・カーサ・デル・タッツァ・ドーロ(La Casa del Tazza d’Oro)」。ちょうど二年前、ローマ滞在中にアパートのオーナーが連れて行ってくれた。この一帯にはかつてコーヒー焙煎所が立ち並んでいたらしく、このカフェも元々はその一軒だった。今も焙煎しているから、店の入口近くにまで挽きたての香りが立ちこめている。
パリには名立たるカフェがいろいろあるが、実際に訪れた有名店は「カフェ・ド・フロール(Cafe de Flore)」のみ。文豪たちが長居をして文章を綴ったり哲学者たちが激論を交わしたことなどで名を馳せたカフェ。日本でも大阪と東京に出店していたが、大阪長堀の地下街にあった店は今はない。ギャルソンと呼ばれるウェイターの立ち居振る舞いや調度品がパリと同じでちょくちょく通っていた。コーヒーがテーブルに運ばれた直後に会計を済ませる方式もパリそのまま。レジを置かない、あの方法をぼくは気に入っていた。
There is a subtle charm in the taste of tea which makes it irresistible and capable of idealisation. Western humourists were not slow to mingle the fragrance of their thought with its aroma. It has not the arrogance of wine, the self-consciousness of coffee, nor the simpering innocence of cocoa.
ご存知ない方のために説明すると、上記の文章は日本語から翻訳された英文ではない。天心の『茶の本』は “The Book of Tea” が原題で、もともと英語で書かれたのである。
昨年3月1日、土曜日。パリ11区はサンタンブロワーズ(St-Ambroise)のアパートを午前10時に出て地下鉄経由でリヨン駅(Gare de Lyon)へ向かった。そこで高速郊外鉄道(RER)に乗り換えて一路西北西へ。わずか半時間ほどのうちにパリ郊外のサン・ジェルマン・アン・レー(St-Germain-en-Laye)に到着した。あのルイ14世ゆかりの垢抜けた近郊の街。セーヌ川が流れている。