3年ぶりの二字熟語遊び

「ぜひお願いしたい仕事がある。来週は空けておいてほしい」と言われたものの、昨日無期延期の連絡。無期延期とは「ない」の意。溜まっている資料の整理でもするかとつぶやいたものの、退屈このうえない。ノートを繰っていたら202153日の、「子女―女子、前門―門前、保留―留保」のメモ。もう3年もブランクがあったとは……。

シリーズ〈二字熟語遊び〉は二字の漢字「〇△」を「△〇」としても別の漢字が成立する熟語遊び。大きく意味が変わらない場合もあれば、まったく異なった意味になる場合がある。その類似と差異を例文によってあぶり出して寸評しようという試み。なお、熟語なので固有名詞は除外。


速足はやあし足速あしばや
(例)陸上競技部のかける君はもちろん走るのが速いが、ぼくらのような並足に比べて歩調も速足だ。勉強のよくできるあゆむ君は走るのも歩くのもゆっくり。でも、遊んでいる時に塾の時間になると足速に立ち去る。

足が速いと言えば、走ることをイメージするが、速足は歩くことに限った用語のようである。みんなでハイキングに行けば、引率者が先頭で颯爽と歩いている様子がうかがえる。走るのが速いのは俊足、遅いのは鈍足と言う。鈍足なのに、自分の都合でさっさと足早に立ち去る者もいる。

長年ながねん年長ねんちょう
(例)知り合いの長年連れ添ったご夫婦は、金婚式の節目に海外旅行に出掛けた。「ところで、あのお二人、どっちが年上?」などと想像するのは野暮。半世紀も一緒に苦労を共にしたご夫婦にどちらが年長かはほとんど意味がない。

いくら久しぶりでも、5年や10年では長年とは言わないだろう。長年が具体的に何年を表すかは人によって違うが、仕事に携わるのであれば少なくとも30年、連れ添うのなら450年になるかもしれない。ところで、年長・年中・年少と区分してしまうと園児になり、もはやシニアには使えない。

道行みちゆき行道ぎょうどう
(例)浄瑠璃で相愛の男女の駈け落ちの、時に心中に到る場面を道行と言う。他方、行道は仏道の修行で、経を読みながら仏殿の周囲をぐるぐる巡る。いずれも道にあって歩を進めることに変わりはない。

道行は旅のことで、道中の光景や旅情を七五調の韻文で綴る。近松門左衛門の『曾根崎心中」のクライマックスが名調子である。

此世このよ名残なごり夜も名残 死にに行く身をたとふれば
あだしが原の道の霜 一足づつに消えて行く
夢の夢こそあはれなれ あれかぞふれば暁の
七つの時が六つ鳴りて 残る一つが今生こんじょう
鐘の響きの聞き納め 寂滅為楽じゃくめついらくと響くなり