ヨーロッパに関する蔵書が100冊以上ある。何度も読み返している本もあれば、買ったままの未読本もある。ヨーロッパへの関心は思想や中世がきっかけだった。やがて、街、料理、芸術・文化、建築について書かれたくだりを拾い読みするようになった。訪れた街の記述に出合うと、感覚や記憶が一気に呼び覚まされる。
📖 『ふだん着のヨーロッパ史――生活・民俗・社会』(井上泰男)
西欧農村と関係の深い野生の動物としては、鹿のほかに、狐、穴熊、雉子、野兎、蜜蜂などがあり、それらは二十世紀のはじめごろまで、特別に注意を惹かないほどたくさん棲んでいた。
古代からケルト人やゲルマン人の祭りの行事に縁のあった動物は鹿である。人々は「豊猟」を祈って歩き踊り、一部の人たちは鹿の頭部の剥製をかぶっていた。肉食を好むから必然狩猟の儀式。日本に残る儀式は農がらみで、祈っているのは穀物の「豊穣」である。なお、いろんな野生動物を食してきたジビエ料理家に尋ねたら「美味の筆頭は断然穴熊」と言った。
📖 『ヨーロッパの風景――山の花・文化の華紀行』(福山孔市良)
ブリュッセルはベルギーの首都である。(……)ブリュッセルの町にはグラン・プラスと呼ばれる美しい広場があり、ここがすべての中心点である。この広場はギルドハウスに囲まれた110メートル×70メートルの方形広場で、南側には13~15世紀に建てられた市庁舎があり、(……)
ナポレオンはヴェネツィアのサンマルコ広場が世界一美しい広場だと言った。ヴィクトル・ユーゴーが世界一美しい広場と讃えたのはブリュッセルのグラン・プラス広場。パリ滞在時、日帰りでブリュッセルを訪れたことがある。サンマルコとグラン・プラス、甲乙つけがたいが、夕暮れ時の市庁舎の美しさを加味すればグラン・プラスに軍配を上げたい。
📖 『ヨーロッパの街から村へⅠ』(画:安野光雅)
本書は絵はがき20枚を綴じた文庫本である。通常の文庫本のサイズで、見た目の体裁も文庫本である。ただ、絵はがきとして使われることも想定しているので、文章は一行もなく、はがきの裏面に場所の名称と街と国名だけが記されている。
この本でも広場に目が行った。二度訪ね、エスプレッソを飲みながら約2時間過ごしたカンポ広場は、グラン・プラスとサンマルコよりも気に入っている。
📖 『遥かなヨーロッパ』(柴田俊治)
これがパリだといえる看板通りといわれると月並みだがやはりシャンゼリゼになる。
シャンゼリゼがいかにも豪華、壮麗なアベニューにみえる一つの秘密は、全長約2キロのこの大通りが、コンコルド広場から凱旋門まで、歩いても気がつかないほどのわずかな勾配で上りになっているところにあると思う。
二度往復しているが、わずかな勾配にはまったく気づかなかった。坂ならわかったはず。しかし、凱旋門の端に立てば「真っすぐに延びる大通りの全部が見通せる」と著者は言う。通りの車、並木、人の群れ、カフェ、建物が弓の弦の上に乗ったようにせりあがって見えるそうだ。ところで、何度覚えても“Champs-Élysées”の綴りはすぐに忘れてしまう。