『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』というパロディ本がある。100人ほどの文豪の名文の一節をカップ焼きそばをテーマとして創作した一冊。たとえばシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』のあの有名なシーンが次のように化けている。
ああ、ロミオ。あなたはどうしてロミオなの? バラは名前を捨てても、その香りは美しいまま。
インスタントになっても、焼きそばは美味しいまま。
ロミオ、その名前を捨てて。私に顔を見せて。蓋を開けたら麺が見えるように!
こんな具合に名作のパロディが書かれる。佳作とそうでないものが半々というところか。カップ焼きそばがパロディになるのは、カップ焼きそばの本質に愉快があるからだ。鉄板で調理する焼きそばはB級グルメなどと言われるが、カップごときに負けるわけにはいかない。それどころか、うまさに唸ることも稀ではない。
時々ぶらぶら歩く商店街に「ヤキソバ研究所」なる醤油焼きそばの専門店がある。入店体験なし。興味がないわけではないが、近くを通る時はいつもランチの後。ともあれ、焼きそばは立派に研究対象になり、その成果が商いになることの証明である。
焼きそばの研究家や通などとは思わないが、焼きそばは好きであり、好きと言うかぎりは数をこなしており、平均すると週一ペースになるかもしれない。これまた好物のパスタといい勝負である。と言うわけで、今年になって食べた焼きそばをレビューしてみる。
具は豚肉とキャベツのみ。具の種類は少なめがおすすめ。卓上のソースを好みに応じて足す。焼きそばとご飯をいっしょに食べるかどうかという論争があるが、好きにすればいい。
ソース焼きそばに比べて具が多い。そばをベースにしたあっさり系の野菜炒めという感じ。上海焼きそばと香港焼きそばは見た目よく似ている。色合いと味は香港のほうがやや濃い。
行きつけだった店では「西安焼きうどん」と呼んでいた。これでもかとばかりにクミンと唐辛子をまぶしてある。ご飯に合う。この店、残念なことに移転してしまった。
カオマンガイで使う鶏肉とモヤシを炒める。生野菜が添えられ、唐辛子と砕いたピーナツがかかっている。日本米だと合わないが、タイ米との相性はかなりすぐれている。
パッタイに青菜が加わり、見た目も味も濃くなっている。上海も香港もこのパットシーユーも醤油味が違う。組み合わせる調味料によって醤油の味変が生じるのだろう。
珍しい羊肉の焼きそば。割と辛めに作られている。羊を敬遠する人は多いが、牛肉焼きそばよりはかなりおいしい(牛肉は焼きそばの具としてはイマイチである)。
リングイーネという稲庭うどんに似たパスタを使う、わが家の創作焼きそば。茹で残ったリングイーネを好みのキノコと炒め、醤油を数滴たらす。刻み海苔と大葉をまぶす。