目的地への道順がわからない時、以前は駅員、店のスタッフ、通りがかりの人らに聞いたものだ。道を聞く時は目的地を告げる。尋ねた相手がその場所に不案内の場合は別の人に聞く。ホテルのフロント係は目的地を知らなくてもとことん調べてくれる。地図上に線で道順を記してくれたりもする。
スマホで簡単に地図と経路がチェックできる今、道を聞くことはめったにない。しかし、誰かに道を聞かれるのは相変わらずよくある。外国からの観光客、スマホを持たないシニアに道を聞かれる。先日は韓国人旅行者が、スマホでチェックしても行き先が出てこないと言って場所を聞いてきた。オークション会場だったが、無事に突き止めてあげた。
学生時代、奈良にはどう行けばいいかと海外からの旅行者に聞かれたことがある。イタリアのご婦人二人。一緒にいた先輩が「連れて行ってあげよう」とぼくの同意も得ずに申し出た。近鉄奈良線で奈良までお連れした。行き帰りで2時間のボランティア。以来、同行する道案内はやめた。「○○ホテルに行きたい」という旅行者には、タクシーをすすめ、地下鉄なら最寄駅を伝える。
「どこどこまで歩いて行きたい」と道を聞かれるのが困る。一昨日のシニアのご婦人がそうだった。キャスター付きのショッピングカートを引きながら、こちらに近づいてきた。
「ちょっとよろしいでしょうか。この近くにホームセンターはありませんか?」
「すみません、他所から来ている者で、この辺りは不案内なんです」
困った表情をするので、スマホで調べてあげた。
「2店舗ありますね。ほら、ここが現在地で、近い方のホームセンターはここから歩いて20分です」
「ありがとうございます」
「今が一番暑い時間帯ですよ。タクシーを拾われたらどうですか?」
「いえいえ、ここまですでに半時間歩いてきましたから、大丈夫です」
何が何でも歩く気満々のようなので、もう一度スマホの画面を見せて、ここを真っすぐ行って二つ目の角を左折して、また真っすぐ行って川を渡り……と懇切丁寧に目的地まで示した。
ぼくよりも年配なので、さらに歩き続けるのはどうかと案じたが、去って行く後ろ姿は矍鑠としており、今風に言えば「アクティブシニア」の典型のように思えた。求めたものを無事に買えただろうか。
開店/閉店や建設/解体が目まぐるしい現在、地元民ですら最新情報には疎くなっている。他人に何かを聞けば時間も取るし、手を煩わせることになる。自力で調べるにはやっぱりスマホも持たねばならない。他力に頼るのは百円ショップのみで、求める品を自分で探すことはせず、いきなり商品の棚を店員に聞く。早くて精度が高いからだ。
