龍馬との邂逅

熱心に世界史を学んだことはあるが、日本史はかなりなまくらである。国辱呼ばわりされても困る。雑学好みのぼくでも手の回らないテーマは、なじみのテーマよりも圧倒的に多いのである。

とは言うものの、日本史は何度も通史を読んではいる。しかし、たぶん世界史の学びに比べると一本筋を通すことにこだわり過ぎたきらいがある。縄文時代から始まって、古代は飛鳥時代、平安時代と下り、鎌倉時代前になるとエネルギーが切れてくる。今度こそはと挑戦を繰り返したものの、忍耐が続かない。その結果、平安時代までは他の時代に比べてかなり詳しいという、いびつな縁取りの歴史観になってしまった。

おもしろいことに、千年ジャンプした幕末・明治維新には強い関心があって、よく本を読んだものである。十代の終わりから二十代の前半に、幕末マニアの先輩がいたのも縁であった。今となっては詳細はほとんどうろ覚えで、興味を惹かれたエピソードを断片的に記憶しているに過ぎない。坂本龍馬、勝海舟、横井小楠、西郷隆盛……その先輩とは頻繁に談義を楽しんだ。「昭和の龍馬を目指せ」などとよく言われたが、「31歳で暗殺されてはたまらない」などと笑い返していた。


もう40年近く前の話である。その後も、かつての情熱ほどではなかったが、龍馬に関する本や勝海舟の本なども読んでいた。けれども、会社を興してからはぼくのテーマはその時々の時代や仕事にシンクロするようなものばかりとなった。古代ローマやルネサンスや古典文学や哲学とも疎遠になっていった。

龍馬を再び強く意識するようになったのは、ここ数年のこと。縁があって年に二度高知に出張するようになってからである。ただ、一泊二日の制限では自由時間は34時間しかない。龍馬の地に行きながら息吹を肌で感じる機会はほとんどなく残念に思っていた。幸いにして、先週、仕事の前日にまとまった時間が作れた。龍馬生誕の地の碑に佇み、「龍馬がうまれたまち記念館」に足を運び、その近くを流れる鏡川の夕景に身をゆだねて時代を幻想的に遡ってみた。

龍馬と

写真上手ではないが、街角や風景をよく撮る。だが、記念撮影は好まない。海外に出ても自分の写真は一、二枚あればいいほうだ。そのぼくが記念館に再現された和室に靴を脱いで上がり、龍馬とのツーショット、いや姉の乙女も入っての「スリーショット」におさまることにしたのである。初対面とは思えぬ、懐かしさいっぱいの邂逅となった。学びも経験も、気になることはしておかねばならないとの思いを強くした次第である。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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