英国の印象

イギリス国旗

良きにつけ悪しきにつけ、英国が旬である。喉元を過ぎると旬が終わりそうなので、今が書き頃だ。ぼくの英国と英国人との、きわめて希薄な関わりを体験的になんと了見の狭い見方だ! と指摘されるのを覚悟して綴ってみることにする。

なお、ヨーロッパには7回旅しているが、英国の地には足を踏み入れたことはない。せめてロンドンでもと思い、パリから特急で小旅行を企てたこともあったが、今なお実現していない。もう実現しないかもしれない。

英国での実体験がなく、英国人との接点もたかが知れている。ぼくが一番最初に会った英国人は大学教授だった。「きみは夏に何をしたか?」と聞くから、“I went to the sea this summer.”(今年の夏は海に行きました)というような返事をしたら、彼は“I see.”(なるほど)とうなずいた。言うまでもなく、“sea”“see”のダジャレである。おもしろくなかったし興ざめしかけたが、当の本人は平気だった。

次に縁のあった英国人とは、国際広報の仕事で数年間一緒に働いた。いい人だったが、プライドが強く、またアマノジャクだった。という次第で、ぼくの英国と英国人の印象はほとんど紙に書かれた知識に依る。しかし、文字媒体経由であっても、それもまた体験の変種だと言えるだろう。

『世界ビジネスジョーク集』(おおばともみつ著)は第一章が「EU各国」。「EU参加国の横顔」が最初の見出し。今では28ヵ国が参加しているが、これは2003年頃の話で、当時は15ヵ国だった。ブリュッセルで売られていた絵葉書には各国の国民性を書き添えてあったという。

アイルランド人のように、いつもシラフで、
イギリス人のように料理が上手で、
フランス人のように、いつも謙虚で、
イタリア人のように、秩序正しく、
ドイツ人のように、ユーモアを解し、
オランダ人のように、気前良く、
ベルギー人のように、勤勉で、
デンマーク人のように、思慮深く、
スウェーデン人のように、柔軟で、
フィンランド人のように、おしゃべりで、
スペイン人のように、地味で、
ポルトガル人のように、技術に強く、
オーストリア人のように、忍耐強く、
ルクセンブルク人のように、有名で、
ギリシア人のように、組織化されている。

以上、いろんな顔を持つ統合体、それがEUというわけだが、自虐的な逆説がおもしろい。イギリス人は「料理が上手!」というおふざけだが、今回の包丁さばきはどうだったのか。


独習で使っていた中級の英語読本で“An Englishman’s house is his castle.”(イギリス人にとって家は城塞である)という諺を覚えた。堅固な城塞に引きこもっていたほうがよかったのか。今回の一件に関して、元々加盟したのが間違いだったという論評もある。同じ教本にはコーヒーハウスの話も載っていた。英国と言えばティーではないのかと不思議に思ったのを覚えている。先日古本屋で『コーヒー・ハウス』という、18世紀ロンドンの都市生活史をテーマにした本を見つけた。ハウスでの談論は政治、経済、文化に影響を与えたという。本と出合った翌日、EU離脱のニュースが伝わってきた。コーヒーをよく味わい熟慮して判断した結果だったのか。

英国人と英国社会についてG・ミケシュが書いた『没落のすすめ――「英国病」讃歌』を興味深く読んだのが1978年。ずいぶん啓発されたが、それでもなお、イギリスはよく分からない存在だった。なにしろ、イギリス、英国、UK、ブリテン、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド……と、何がどうなっているのか、なぜ呼び名がいろいろあるのかなど、基本のところで不可解なものがこびり付いていた。英国はぼくの仕切りではヨーロッパに入っていない。ヨーロッパに関する本は数え切れないほど読んだが、英国については上記のミケシュも含めて数冊。他には、ローワン・アトキンソンの『ミスタービーン』と独り舞台のDVDを何度か観た程度……。親近感があると思っていたのは錯覚で、実は、ずっと遠い存在だったというのが偽らざる体験的印象なのである。

野球部に入部するには丸坊主にしないといけないのに、一人だけ長髪のまま部活動をしていた。監督もコーチも気を遣っていた。バントの指示が出ても無視して打ったり、打てのサインなのに見送ったり……。そして、ついに退部届を提出した。丸坊主になるのを恐れたからではない。たぶん、元々野球が好きではなかったのだろう。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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