知の編集➍ ソリューションの編集

罪を許してもらうために、まずしなければならないこと。それは、罪を犯すことである。犯した罪がなければ許してもらうことはできない。問題もこれによく似ている。問題を解決するためには、まず問題を見つけなければならない。

問題解決のきっかけになるのは問いである。問題の答えを求めるなら、答えが出やすいように問う。「これは何か?」などと単に問うだけで答えが出るわけではないが、少なくとも問いを工夫することによってこれまで気づかなかったことがあぶりだされてくることがある。また、問いは、答えを捻り出す方向に考える誘発剤になる。

よき問いはよき答えを導く。同様に、ありそうもないことを問うことによって、驚くような着眼やソリューションに行き当たる。「ビールの泡はビールに決まっている」などと言って知らん顔するよりも、「はたしてビールの泡はビールなのだろうか?」と問うほうがビールについての洞察が深まる。たとえそれがナンセンスであってもだ。1990年頃、英国で「ビールの泡はビールか否か?」という論争がパブから始まり、翌年消費担当大臣が「ビールの泡はビールではない!」という判断を下した例がある。

コペルニクス的転回  かつてリチャード・ドーキンスは「人間が主役か、それとも遺伝子が主役か?」という問いを投げかけた。そんなもの、人間に決まっているはずと常識は教えるのだが、ひとまず問題提起した。ところが、この問いによって、彼は「卵が主役であり、めんどりは脇役である」という、画期的な編集視点を得ることになった。「生物体とは、遺伝子が遺伝情報を連綿と伝達し続けていくための媒体にすぎない。したがって、自然界で生きとし生けるものの行動を操っているのは遺伝子エゴイズムである。たとえば、めんどりなど、卵のほうが己の再生産を確保するために発明した産卵装置にすぎない」〔注1

1 加藤秀俊の「およそ情報というものに生産過剰などない」という言は現実そのものを的確に言い表わしている。情報に比べれば、モノの大量生産など可愛いものなのである。
Rolexという記号が主役であり、モノとしての時計はそれを形にした脇役にすぎない。その時計を見せびらかすための人の手首などは誰のものだっていいのだ。

ブレークダウンという編集思考  世界、人生、経済、健康などと大きな概念をいくら眺めてみても前途が開けてくるわけではない。何がしかの策にしても、概念の小分け・細分化ブレークダウンによってはじめて立てられるのである。

ある大きな概念XPQRという中概念に分ける。次いで、Pという中概念をabcという小概念に分ける。この過程では、「Xとは何か?」という問いと「それはPQRである」という答えのやりとりがあり、「では、いったいPとは何か?」というさらに突っ込んだ問いと「それはabcである」という、より精細な答えのやりとりが起こっている。

時限ソリューション  正確無比な意思決定やソリューションは一つの理想ではあるが、決して現実的ではない。ぼくたちは無制限かつ無期限的に「いい情報」を探し続けて選ぶことはできないのである。

ソリューションとは意思決定の一つであり、今手元にある情報と知識を時間内に最適編集して解決法を決断することにほかならない。それは、問いに対して「イエスかノーか」のいずれかで答えるのに似ている。

情報のネガポジ反転  問題解決の一面に、ネガティブ情報の中からポジティブ情報を引き出したり見つけたりすることがある。頭痛や疲労というネガティブ症状に気づくからこそ、薬やサプリなどでポジティブ摂取ができる。自覚症状のない病もある。その場合は専門医にネガティブ因を見つけてもらいポジティブ処方してもらうわけだ。

「ライバルが多い」というネガティブ情報は「市場の魅力が大きい」というポジティブ情報に反転でき、「もてない」というネガティブ情報は「失恋もしないし余計な金も使わなくて済む」というポジティブ情報に反転できる〔注2〕 反転した結果、解決のめどが立つこともあれば、特に問題と言うほどのこともない、別に解決しなくてもいいのではないかと判断できることもある。

2 「金がない」→「失う心配がない」というふうにネガ/ポジ反転するということは、ポジ/ネガ反転もありうるということだ。つまり、「大金がある」→「失いたくない」→「失くしてしまったらどうしよう」という具合に。ネガとポジの反転を利用したジョークが、よく知られた“Good news, bad news”である。
手術が終わった。「先生、どうでしたか?」と患者の妻が尋ねた。
「奥さま、良い知らせと悪い知らせがあります」とドクターが言った。
「良い知らせを先に聞かせてください」と妻が言った。
「手術は成功しましたよ」とドクターが言った。
妻は安堵した。「ありがとうございます。で、悪い知らせのほうは何ですか?」と尋ねた。
ドクターは神妙な顔をして言った。「ご主人が亡くなりました」。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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