続・食にまつわる語義と語源

今年に入ってからのテレビ番組だったと思う。分子生物学者で農学博士の福岡伸一が「もし宇宙人がはるか彼方から地球を眺めたら、地球の最大勢力をトウモロコシだと推論するだろう」というような話をしていて、強い興味を覚えた。コメやムギ同様、トウモロコシはイネ科の穀物だ。そして穀物の中で最大の生産量を誇る。地球外生命からすれば、トウモロコシこそが人類や家畜を支配しているという構図である。

さて、食養生を強く意識してからおよそ二ヵ月が経つ。ひもじい思いをしているわけではないが、上記のような食糧や食生活にまつわる知識への関心が別次元にシフトしたような気がする。先週、このブログで『知っておきたい食の世界史』からいくつかエピソードを拾って紹介した。読了して別の本を併読しているが、このまま通り過ごすには惜しい話があるので少々書いておきたい。


【オリーブ】 ジェラート専門店でバニラを注文した。店主が「オリーブオイル」を垂らしてみませんか?」と言うから、好奇心のおもむくままうなずいた。経験上明らかなミスマッチだが、悪くはなかった。イタリア料理でもスペイン料理でもふんだんにオリーブオイルを使う。健康オイルとしてのイメージと相まって、ぼくたちの食生活にもずいぶん浸透し和食に用いられるのも珍しくなくなった。
ギリシア語でオリーブは“elaia”、油は“elaion”という。ほぼ同じ語根もしくは語幹である。オリーブオイルこそがオイルだったという証だそうだ。英語の“olive”のほうはラテン語の“oliva”から派生した。オイル(oil)はこれが訛った呼び名という説がある。そうすると、オリーブオイルは「オリーブオリーブ」または「オイルオイル」という冗長な言い回しをしていることになる。
なます】 なますと言えば、大根と人参の酢の物というイメージが強い。魚へんの「鱠」という漢字もあって、この場合は細く切り刻んだ魚の身も入れた。しかし、通常、なますを漢字にすると、にくづきの「膾」である。「あつものりて膾を吹く」というとき、この膾は生の肉を意味している。熱いスープで痛い目に遭ったから、冷たいものでもふぅふぅするという意味だから、生の肉でなければならない。
膾はもともと肉だったのである。その名残が韓国の「肉膾ユッケ」だ。古代中国では生の細切りの焼き肉が人気で、誰もがよく食べた。よく食べるということはよく知られたということだ。ここから、広く知れ渡るという意味の「人口に膾炙する」という表現が生まれた。この熟語の膾炙は「炙り肉」のことである。