抜き書き録〈テーマ:都市〉

題名に「都市」を含む本を本棚から取り出して拾い読みしている。拾い読みするにしても、何か取っ掛かりがないとキリがないので、知っている都市の話を拾ってみた。目を通したのはとりあえず4冊。


📖 『裏側からみた都市 生活史的に』(川添 登)

中世都市の裏側は、ルネサンスが象徴する人間復興や技術革新や生産増大の恩恵を受けていたのか……。普通に考えればそうだが、庶民の暮らしは置き去りになることが多い。

「シエナ市の条例によると、台所のくずを投げ出したり、窓から容器の中身、つまり汚水を捨てたりすることを、夕暮れから夜明けまでの間は禁止していた。ということは、昼間なら自由にできたということである。」

トスカーナ州の世界遺産の都市、シエナには二度佇んだ。州都のフィレンツェ繋がりで観光客も多い。ひどかった中世の街は今、窓枠やカーテンを取り換えるにも市の認可が必要だ。徹底した規制のお陰で、今のシエナでは、表も裏もなく、観光都市の条件である景観と清潔が保たれている。

📖 『都市の使い方』(粉川哲夫)

都市のいろんな使い方があるが、大阪の下町育ちのぼくには喫茶店とアーケードのある商店街が印象的な記憶だ。ぼくの記憶とぴったりと重なるような一節が書かれている。

「大阪の梅田の街をうろついているうちに、コーヒーがのみたくなって曽根崎のある喫茶店に入った。二階の窓側の席に腰を下ろすと、アーケードに通じる街路が見おろせる。」

378年前の午前11時頃の光景らしいが、買物をする女性が意外に多いと著者は感じたと言う。平日の午前11頃に曽根崎界隈を歩けるのは限られた人たちだ。大都会になった今の梅田には、時間が止まったまま昭和の余韻に浸らせるエリアがまだ残っている。

📖 『都市計画の世界史』(日端康雄)

「フィレンツェ、ヴェネツィア、ローマ、ロンバルディアの上流階級の一族たちは、彼らの都市を飾りたて、メディチ家、ボルジヤ家およびスフォルツァ家は、古典的モティーフで飾りたてた新宮殿を自ら建設した。教会もこうした動きに一枚加わった。」

引用された都市にはルネサンスゆかりの建造物が現存している。くまなく見て回ると、156世紀の中世ルネサンス都市の繁栄には名門家系の経済力が不可欠だったことがわかる。都市計画にはお金がかかったのである。
同じ頃、わが国でも都市化が進んでいた。欧州が宗教色の強い都市だったのに対し、わが国では戦国武将の手になる、防衛力重視の城下町が発展した。まずまずの規模の現代の都市はみな、かつて複合的な機能を持つ城下町だったのである。

📖 『都市のエッセンス』(望月輝彦)

パリにも何度か行っているが、世紀末を嗅ぎ分けるだけの街歩きの経験はない。世紀末と言えばデカダンスだが、もちろんそれだけではない。

「一八八九年のパリ万国博覧会にエッフェル塔が誕生した。作者のエッフェルの造形意識の不在にもかかわらず、エッフェル塔は来たるべき二〇世紀の“技術美”を暗示するメルクマールとなった。」

19世紀末の都市では20世紀が「良き時代」になるだろうと予感させた。たしかに世紀末の爛熟らんじゅく頽廃たいはいは新世紀でも残り続けた。人々は豊かさと享楽に酔ったが、予期せぬ二度の世界大戦で都市は疲弊した。再生された現代の大都市に、行き先が定まらず物憂げにさまよっている幻影が見えることがある。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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