何人かで集まって、別れ際に「今度また会おう」と言い合う。人によって「今度」は違う。近々ではないが、そんなに先のことでもないはず。しかし、集まった全員が誰かが音頭を取るだろうと思い、結局誰からも何も言って来ず、気づけば数年経っていて「今度の旬」も終わっている。「今度また会おう」と言い交わした時のテンションは微塵もない。
オフィスの隣りの中華そばの店がバズってからまもなく1ヵ月、その勢いが止まらない。隣りだから、待ち人がまだ少ない開店前に行こうと思えば行けるし、列が消えかけた頃に行けばいい。なのに、バズってから一度も行っていない。テンションは上がりも下がりもしない。バズった期間限定のラーメンはぼくにとって旬ではなく、したがって旬外れもない。
中華そばを目指して遠方からやって来る。休暇を取ってやって来る人もいる。12席ほどしかない小さな店に午前11時15分頃から並び始め、ずっと30人くらいの人が待ち続け、午後3時過ぎくらいにようやく並ばずに入れる。わざわざ来る人にとっては今が旬。食べたい、食べ逃したくない、並んでもいい……テンションが上がりっ放しなのだ。
この冬、牡蠣料理に合わせるためにちょっといい白ワインを買った。ところが、昨年末から2月下旬に至るまで、出掛けるたびにあちこちの市場を覗いたが、いい牡蠣に出合わなかった。今の気分は「別にあの白ワインに合わせなくてもいいか」。牡蠣の本当にうまい旬は3月だからまだチャンスはあるが、1ヵ月前に比べて何が何でもという感じではない。
2024年11月6日、激戦州で勝利したドナルド・トランプの当選が確実になった。そして今年1月20日に大統領就任式がおこなわれた。周知の通り、就任後から言いたい放題、したい放題である。カリフォルニア州在住の従妹とその主人は6年前に来日した時に、1期目のドナルド・トランプを猛批判し、ぼくを目の前にして大いに嘆いていた。
昨年の大統領選直後、さぞかし落ち込んでいるだろうと思って「トランプが勝ったね」とメールしたら、トランプのポスターが貼ってある部屋の写真が送られてきた。民主党バイデンを支持していた従妹ファミリーは共和党トランプに「転向」していたのである。仰天した。バイデン政権に失望し、あのドナルド・トランプに賭けたのだった。
1月中旬に『アプレンティス――ドナルド・トランプの創り方』が上映されることを知った。しかも、よく行く映画館3館での上映。これこそ今見ておくべきシネマだとテンションが上がったが、時間が取れなかった。先々週、予約しようとしたら、大阪市内の上映は終わっていた。不人気だったと思われる(それに、題名のアプレンティスが分かりづらい)。
上映の終わった映画館に代わって、大阪府では郊外の1館のみが上映している。見るなら今と思っていたのに、乗り換えなしの電車で半時間の映画館が遠い、遠すぎる。就任後の大統領令のおびただしい署名、発言の数々を見聞きしているうちに、この映画は旬ではなくなった。代わって、『実録ドナルド・トランプ劇場』のロードショーが今の旬である。