食べたり空を見上げたり

題材に困らない話と言えば、食事と天気である。なにしろ、ぼくたちは毎日何度か食べるし、よほどのことがないかぎり、日々天気予報を見聞きし空模様や暑さ寒さも気にする。一般の会話では、ごぶさたでも親しい相手には食、さほどでもない相手には天気が定番である。会話だけではなく、日記やブログにも当てはまる。マンネリさえ我慢すれば、この二つの話題については無尽蔵で書けるのだ。ただ、ブログだけに限定すると、毎度毎度同じような話を読まされたら読者は少しずつ離れていくだろう。

読者を想定しようとしまいと、マメでありさえすれば、誰にでも日々の食事内容と天気を徒然なるままに記録することができる。実際、かぎりなくこれに近いプロのエッセイストもいるのだ。但し、喫茶店でのモーニングを常食している場合、「今朝は、厚切りトーストにゆで卵、ホットコーヒー」と毎日同じことを書くことになる。これでは情けないと感じるだろう。そこで、一昨日ぼくが書いたように、お昼には時々ロコモコ丼やタコライスなどの「異変」を経験してネタづくりに励まねばならない。

いや、自分の食事の記録だけにこだわらなくてもいい方法がある。日々コメントに変化をつけることができ、なおかつ長続きする方法だ。手配りやポスティングされる店のチラシを捨てずに取っておき、精細に分析するのである。一ヵ月で何十枚ものチラシが手に入るから食のネタに事欠くことはない。店名、メニューと価格、店の雰囲気、チラシの文面・デザインなどの要素から一品一品の味を想像してみるのもよい。一年後には『チラシに見る料理店の魅力』と題した一冊の本が出来上がっているかもしれない。


昨日おもしろいものを見た。日曜が定休日らしきその店のシャッターに「カキフライ定食」と大きく書いた貼り紙がしてあった。二行目に「○○付き」と書いてある。さて、何と書いてあったか。定食なのだから、ライスや味噌汁やお新香などと念を入れるはずがない。「千切りキャベツとポテトサラダ付き」または「タルタルソース付き」はありそうだが、いずれもカキフライには黙ってセットされるものだろう。

実は、そこにはなんと「酢豚付き」と書いてあったのだ。「酢豚定食 カキフライ2個付き」ではなく。ぼくにとっては驚きの主客逆転情報である。ただ、時間が経って冷静に考えてみたら、原価や訴求面では「カキフライ定食 酢豚付き」としたくなる店側の趣向にも頷けた。これからが旬のカキを主とし、いつでも食べれる酢豚を客にするシナリオはありうる。

さて、次いで天気の話。体育の日の今朝、窓を開けて空を見上げると、抜けるような青が広がっていた。この空について、今日の天気について何を書くことができるか。天気模様を表現する語彙が比較的豊富な日本語だが、おおむね快晴、晴、曇、雨、雪があれば間に合い、たまに「時々」と「のち」で組み合わせれば済む。すぐに飽きてしまうので、天気についてもっと長く語ろうと風や気圧や波へと話題を広げる。とりわけ、気温を最高と最低で表現することによって天気の話がさらに膨らむ。

今夏のような酷暑が続けば、話し下手な人もネタに悩まない。天気がらみの話が周辺で飛び交い、どこに出掛けても「暑さ」が会話の主役であった。気象予報士にとってやりがいのある夏だったに違いない。ところで、「平年に比べて明日は……」と彼らは頻繁に言う。「明日は平年に比べて蒸し暑いでしょう」と予報してもらっても、あまり参考にはならない。なぜなら過去30年の平均値である平年の温度などアタマも身体も覚えていないからだ。「今日に比べて明日は……」だけでいいと思うが、どうだろう。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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