二度あることは……

高知に三日間出張していた。その時のちょっとした話。それは、愛用の手帳の置き忘れから始まった。

「二度あることは三度ある」という。実際は、三度で終わらず、四度、五度、六度……と続くことが多いのだが、「二度あることは何度もある」などと言っては締まりが悪い。二度の次の三度を一応の区切りにするほうがわかりやすい。実際のところ、二度あることは何度起こるかわからない。しかし、一つだけ確かなことがある。二度あることは三度あると言えるためには、一度目の経験がなければいけないということだ。

さて、今回の二泊三日の内に、一度あったことが二度あり、二度あったことが三度あった。滞在が長かったら四度、五度になっていたかもしれない。ともあれ、三度で終わってくれた。大した事態にはならなかったが、そのつど一瞬ハッとし、ほっとさせてもらった。

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一度目。ホテルのチェックインが午後2時だったので、フロントに荷物を預けて食事と喫茶に出掛けた。手には分厚いシステム手帳と、財布や小物を入れた小さなバッグ。ホテルに戻る途中、ドラッグストアに寄る。ポイントカードは?……持っているが今はない……ではレシートに印を、一ヵ月以内に……出張だから来年まで来ない……どこの店でもポイントが付きます……などというやりとりをしながら、釣銭を受け取りコインケースをバッグに入れた。

店を出てまもなく店員が追いかけて来て、手帳を差し出した。命より大切にしていると周囲に吹聴しているくせに、時々置き忘れてしまう。バッグから財布を出し入れし、財布から紙幣を出し入れし、お釣りをコインケースに入れたりする動作にたわいもないやりとりが重なる。そうこうしているうちに、商品を受け取るまでの間に手帳を無意識にカウンターに置いてしまう。

二度目。日付が替わって研修日。午前の講義を終えて昼食。仕出し弁当ではなく、外出することにした。軽食してアイスコーヒーを飲んで戻ってきた。しばらくしてホテルのカード式のルームキーが届けられた。ズボンのポケットから滑り出して椅子の上に落ちていたらしい。店の常連の研修担当の男性が同伴せず、ぼく一人だったら届けられることはなかっただろう。カードキーのようなものがポケットからはみ出すことはめったにないが、腰掛ける椅子が低かったりソファーだったりする時は要注意なのである。

三度目。帰路、高知空港に着いた。出発まで小一時間余裕があったので喫茶店に入った。その時点では異変はなかった。保安検査場前で、タブレットとスマホを小さなトレーに、往路の検査で引っ掛かった金属製のケースやハサミなどを別のトレーに入れた。キャリーバッグを預けようとしてハンドルを押し下げたが縮まらない。そのまま係員に手渡した。係員は画像検査員に「ハンドル出たまま通します」と告げた。

検査直後にちょっと不安がよぎった。ハンドルがバッグ内に収まらないと持ち込めない、荷物を預ける手続きをさせられるのか……などと思いながら、トレーに出した小物をバッグに戻す。待合室へ移動し、座ってからスマホがないことに気づいた。少々慌てて立ち上がり、検査場に戻る途中、向こうから歩いてきた検査員がぼくを見つけてくれた。

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こと今回の出張に関するかぎり、二度あることは見事に三度あった。もう少し長い目で見れば、過去に何度か起こったことであり、これからも何度か起こりそうなことだ。それにしても、今回のいずれのケースでも届けてもらえたのは幸運だった。手帳もルームキーも届けられるまで忘れたことに気づいておらず、まったく不安に陥っていない。最後のスマホだけほんの数秒間ドキッとさせられただけだ。

ところで、キャリーバッグの伸びたままのハンドル。搭乗前に一か八か力一杯押したら縮んでくれて機内に持ち込めた。大阪に着いたら、今度はハンドルが伸びてくれない。つまり、手で提げなければならない。帰宅後、ドライバーで分解してみた。プラスチック部品の一つが割れていた。瞬間接着剤で手当てをする。伸ばしてみたら伸びたが、途中で止まって動かない。もはや伸びも縮みもしない。と言うわけで、キャリーとしても手提げとしても使いづらい状態で部屋の片隅に置いてある。一瞬だが、このバッグをスマホ忘れの原因にしたことを少々反省している。

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proconcept

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岡野勝志(おかのかつし) 1951年大阪生まれ 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター 岡野塾主宰 ヒューマンスキルをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。 マーケティング、コミュニケーションにまつわる企業や人

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