リンゴの種(ネタ)

リンゴ、りんご、林檎……どう表記しようか。ちょっと迷う。林檎はともかく、カタカナにするかひらがなにするか。英米人には“apple”しかなく、こんなところで逡巡しない。ひとまずカタカナにすることにした。ところで、三十数年前の歯磨きのテレビコマーシャル、「りんごをかじると歯茎から血が出ませんか?」というセリフを思い出す。台本は「りんご」か「リンゴ」のどっちだったのか。

サンふじ 巨大リンゴ

とてつもなく大きなサンふじが自宅に届いた。iPad上に二個並べられないサイズ。実に立派なリンゴだとまじまじ見ていると、リンゴにまつわる記憶がよみがえる。うろ覚えのものはちょっと調べてみた。暇つぶしのリンゴのネタ探し(ここは「タネ」ではなく、逆さ読みして隠語の「ネタ」がいい)。それはそうと、林檎の「檎」は何度覚えても忘れてしまう。どんなもんだいと書ける者も少なそうだから、カタカナかひらがなに落ち着くのもやむをえない。

英語では成句の“apple-polish”がよく知られている。日本語の「ごますり」にあたる。リンゴを磨いて先生にあげて喜んでもらうのだが、テストの点数に反映されたら贈収賄である。諺では“An apple a day keeps the doctor away.”も有名。「一日リンゴ一個で医者いらず」。リンゴ一個の箇所に、たとえばにんにく卵黄何粒などのサプリメント名を入れてみる。それで医者いらずとはいかないから、リンゴの効能も過信しないほうがいいだろう。

☆     ☆     ☆

「リンゴと言えば?」と数人に何を連想するか尋ねると、必ずイブが出てくる。『旧約聖書』によると、イブは蛇にそそのかされて禁断の果実に手を出した。その禁断の果実がリンゴであるとは書かれていない。一応リンゴということになってしまい、それゆえにリンゴには誘惑だの不従順という、リンゴにしてみれば不本意な花言葉がついてしまった。

(……)
やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅の秋の空に
人こひめしはじめなり
(……)

島崎藤村の「初恋」の一節である。このシーンではリンゴやりんごは絶対にダメで、林檎でなければならない。なお、ここでもリンゴは誘っている。「和製イブ」の雰囲気が漂わぬでもない。

歯にあてて雪の香ふかき林檎かな    渡辺水巴

当然林檎でなければならない。リンゴのシャキッとした歯触りが伝わってくる。あの歯磨きのコマーシャルのように丸かじりなのだろうか、それともスライスした一片なのだろうか。ここは前者だからこそ香りが深く伝わってくるはず。もちろん歯茎から血が出ると様にならないから、歯周病とは無縁の健康の歯でなければならない。と言うわけで、リンゴからぼくは歯を連想することが多い。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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